「個人尊重」徹底した自立支援
デンマークの高齢者・精神障害者福祉

 

二年ぶりの訪問だが、「生き方の自己決定」「生活の継続性の尊重」「自己能力の開発」といったノーマライゼーションの徹底ぶりにあらためて驚かされた。理念を異体化していく行動力には感心する。制度や仕組みの逢いというより、国民一人ひとりの福祉に対する認識や考え方の差を実感させられた。


 ●「お仕着せ」なし
 首都コペンハーゲンから西に百二十キロ。オーデンセ市近郊の人口六千人のコミューン(町)、ホービーで高齢者用集合住宅を見学した。日本で言えばケア付き住宅。レンガ積みの平屋建てが四棟並ぶ。


それぞれの棟に十人ずつ入所。全室個室で介護福祉士、看護婦、理学療法士ら三十八人のスタッフが常駐する。高齢者一人に職員一人の割合だ。
 入所者一人当たりの占有面積は六十平方メートルとかなり広い。地元の「プライエム」(老人ホーム)に比べても倍以上だ。使い慣れた家具の持ち込みもでき、お年寄りは落ち着いた様子でくつろいでいた。


利用料はもちろん無料。年金から食費や洗濯代などの雑費を支払っても小遣いが残るという。
 ここ数年、デンマークでは「個人の生き方を尊重する福祉」がさらに進んだ。「プライエム」の新設はなく、代わってこの種の集合住宅が主流になっている。
「人生は三段階に分かれる。


第一段階は教育のための時期。

第二段階は仕事。そして、

第三段階は生活の質を高める時間なんです。

私たちはそのお手伝い役」とスタッフの一人。そこには「老人」や「病人」という視点はなく、あくまでも「個人」。体を十分に動かせないお年寄りばかりだが、スタッフの自立支援の意識が徹底しているためか、寝たきりの人はいなかった。「お仕着せ」の介護はなく、棟内の静けさと病院臭さのない清潔さが印象に残った。


 外出も自由
精神障害者の場合も、病院から在宅への移行が進んでいる。訪れたフュン県の公立精神病院は七十年代に千百あったベッド数が、在宅治療体制の整備で減少。現在は六十四床しかない。
 在宅治療を支えるのが、医師や看護婦、理学療法士らによる地域精神医療班。自宅や集合住宅を巡回し、患者のケアにあたる。「社会的入院をとことん排除した結果、入院の平均期間は約一カ月になった」と同病院の関係者から聞き耳を擬った。


 精神障害の場でも、集合住宅が患者の生活の拠点になっていた。同病院の近くにある集合住宅には、十二人が入居していた。支援センターに隣接しているものの、住宅公団が提供しているアパート。しかも住宅地の一角にあった。
地域住民からの反対はないのか職員に尋ねると「最初は差別意識があったが今はない」と言う。


 部屋は完全個室で、生活への拘束はなく外出も自由。常時、支援センターの生活指導員が二、三人いて、投薬管理や日常生活のアドバイスなどを行っていた。患者もリラックスした雰囲気で生活を楽しんでいる様子。

地域精神医療班の巡回もおり、患者の状態訳第で入院などの判断をする。靖院中心の日本の精神医療から見れば、地域レベルで対応ができている点は「すごい」の一言だった。


 余談に在るが、視察の合間に不注意で左足首を骨折した。救急病院に運ばれたが、外国人の旅行者でも救急医療は無料。思わぬところで福祉国家の恩恵を体験することになった。

  小笠原嘉祐